ポプテピピックはドラゴンボールの二次創作である。

前置き

良くも悪くも今期のアニメで最も話題となっているのは、『ポプテピピック』であろう。
まずはじめにこの作品の特徴を整理したい。それはパロディの多さと特徴的な声優の起用である。
今回注目するのは後者、具体的にはポプ子とピピ美の二人の主人公を演じる声優が毎回変わる点である。さらに、起用される二人は、必ず以前に有名作品で共演しているという共通点がある。
例えば、三ツ矢雄二(『タッチ』、上杉達也役)と日高のり子(同、朝倉南役)、中尾隆聖(『ドラゴンボールZ』、フリーザ役)と若松規夫(同、セル役)、日笠陽子(『けいおん!』、秋山澪役)と佐藤聡美(同、田井中律役)と言った具合にキャスティングが行われている。

なぜ声優のペアキャスティングが面白いのか

公式には名言はされないが、毎回視聴者は「この声優は○という作品のペアである」という認識を持ち、それを共有しながら作品を視聴している。「あの作品の声優がこんなアニメを演じている」というメタ的面白さを作り出しているのである。
つまり、オタクに共有されている今までの作品のデータがあるからこそ成立するのがポプテピピックの表現方法であり、これは東浩紀が言うようなデータベース消費*1にほかならない。
しかし、ポプテピピックの面白さのために共有されているのは、猫耳や尻尾と言ったような萌え要素を集めた単純なデータベースではない。その蓄積はもっと具体的なもので、現代のアニメのデータベースは過去の作品をそのまま全て取り込んでいるのだ。

斎藤環は東のデータベース消費論を「パーツをランダムに組み合わせるもの」だと解釈し、その単純さを批判した*2。「データの単位は人間の認知構造にもとづいてきわめて恣意的に決定づけられるもの」である問題点を指摘し、要素の単純でランダムな組み合わせではなく、意味が機能するためには他の要素との位置関係の調整が必要であるとしている。
しかし、ポプテピピックに利用されているのは単純な要素ではない。斎藤が指摘したような複雑な位置関係そのものがデータベースに蓄積され、反映されているのである。

ポプテピピックドラゴンボールの二次創作である

同人誌はなぜ面白いのか。当たり前だが全員に共有されている「作品」が存在するからである。
原作からキャラの絵を拝借することにより、ありえないようなストーリーにも制御が生まれ、作品の文脈が維持される。
では、「キャラの」声を拝借し、違う声を当てたらどうなるのだろうか。それもまた二次創作である。

クレジット上では、ポプ子とピピ美は中尾隆聖と若松規夫である。
しかし、私たちが消費しているのは「声優の」声ではなく、「キャラの」声なのである。
ようするに、私たちがポプテピピックを見る時、声を当てているのは「フリーザ」と「セル」なのである。

ここに、ポプテピピックの声優のキャスティングが面白い理由がある。
ポプテピピックは壮大な二次創作なのである。

(この文章は大学のレポートとして書いた内容を一部抜粋、校正したものです。)